私というものがありながら、他の女と出歩くことを悪いことじゃないと言い切るアイツ。
しかも相手の女は売れっ子モデル。お世辞にも可愛いとはいえない愛称で呼ばれても
それが「彼女」であったばかりに、ダサイ愛称さえもが可愛く思えてくるから凄い。



「俺が誘ったわけじゃない。ムコウが勝手にくっついて来るだけ」



ああそうですか。そうでしょうとも。
そんな女に「どうしても」とせがまれたら断れないのが男のサガでしょうよ!
どうせ私は普通です。綺麗じゃない普通のオネエサンです。
1LDKの「玄関開けたら3分でごはん」な部屋に住む地味なOLです。



もう… どう足掻いたって勝ち目ないじゃない。



「別に比べてるわけじゃない。比べようとも思わない。



そんな浮気男の常套句なみたいな慰めは何の証にもならないって言うの!
悔しくてもどかしくて切なくて地団駄踏んでみたところで
虚しいため息が零れるだけ。



もういい。



そっちがその気なら、こっちだって。
目には目を。アンタのその言い分に倣ってやる!



そう勇んで部屋を出た。
ヒールを鳴らして向かったのは閉店間際の某百貨店。
迎える獅子を一睨みしてから、ルージュを買った。
愛用しているいつものよりも濃いそれは深紅の薔薇色を思わせる。



次は服。とろりと肌に落ちて馴染む素材は身体のラインを浮き立たせ
胸元と背中が開いたデザインはとてもセクシーだ。
試着したまま買い取った勢いで、ランジェリー売り場に向かう。
豪奢なレースと刺繍をふんだんに使ったブラとタンガショーツとガーターベルト。
揃いの刺繍が着いたストッキングも纏めて買ってその場で着替えた。
戦闘服…じゃない、勝負服はこれでOK。
パウダールームでルージュを引きパフュームを付け直したら、完成。



ふん、どうよ?
私だってその気になればちょっとイイ女に見えるんだから!
…見えてる…よね?多分。



あぁ、だめだめ!気弱になったらそこで負けなんだから。
よーし。今夜は絶対決めてやる!
いざ行かん戦場へ。



と、威勢よく夜の街へ出たのはよかったのだけれど
いざ声を掛けられると萎えてしまう。



こんなチャラい奴は嫌。
こういう馴れ馴れしい奴も駄目。
ギラギラしてるオッサンは問題外。



はあ。アバンチュールも楽じゃない。
何だかとても疲れて、バカらしくなってきて
盛り場の喧騒から少し外れた小さな看板を掲げている
静かなバーのカウンターに落ち着いた。



履き慣れないハイヒールにアキレス腱が悲鳴を上げてる。
ちょっと休憩。一息いれよう。夜はまだまだ長いんだから。
下がりかけたテンションをもう一度上げるために
2、3杯煽って、さあ仕切りなおしだ。
今夜はヨクボウに忠実に本能の赴くままに行動するの。
アイツだってそうしてる。律儀に操をたてることはない。
女にだってある「欲しい」時を理性で押し潰すなんて、もうしない。



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