「勝負に勝てそうなカクテルですか?」
「何でもいいわ。がっつり気合が入るやつ」
「はあ…」



眉を八の字に寄せ困惑した表情のバーテンダーに
「作り甲斐があるオーダーだな」 と脇から声がかかり、続く。



「美人は難問を出すものと昔から決まってる」
「ええ、そうですね。善処しましょう」
「ああ、頼む」



バーテンダーではない声を辿って目が合ったのは
ふたつ向こうの席に座る細身の大柄な男。



ちょっと待ってよ。オーダーしたのは私なのよ?
なんで関係ないアンタが調子よく喋ってんの?



一睨みした私に小さくグラスを掲げながら微笑んだのは挨拶代わりか。


何よ、粋がっちゃって。
…でもちょっとイイ感じじゃない?



「…レディ・ゼネラル」
「は?」
「レディ・ゼネラル。女将軍とでも訳すか…」
「それ、どういう意味?」
「どうもこうも。勝負に挑むのに酒を煽って景気づけるのだろう?勇ましい事だ」
「悪かったわね!勇ましくて」


前言撤回。ヤな感じ。


「悪い意味に取らないでほしい」



そう言って薄く笑い、席を立った男の長身は座る私からは見上げるほどで。
優雅に歩いて私の隣に「失礼」と呟いて腰を下す。



「ちょっと羨ましいと思ったんだ」



羨ましい? 何、意味の分からないことを言ってるのよ、と思ったけれど
一瞬その姿に見惚れて言葉にならなかった。
だってこの男、不躾だけれど近くで見るとちょっとどころか規格外にイイ男なんだもの。



「…羨ましい?」
「ああ」



切れ長の涼やかな目元を飾る細いチタンのフレームは知的でエレガントで
それにサラリとかかる長めの前髪の色っぽさが端正さに甘さを加えてる。
一目でこの男に囚われた気がした。



「貴女のような人に挑まれる男が羨ましい、と」



薄めできりりと閉まった口元から発せられるのは艶のある声。



ヤバい、な。
全身に駆け抜けた直感に警戒警報が赤く点滅をし始める。



「どんな男がその栄誉を与えられるのか、と」



ああ、ダメ…。
とびきりイイ男なのに下手に出て相手の自尊心を擽るなんて
女ったらしの常套手段だとわかっているのに。



「できる事ならその候補になれないものか、と」



わかっているけど…いいじゃない?
女ったらしな男の方がきっと今の私に似合ってる。



「…なれるわ、アナタなら」



見計らったように出されたグラスを掲げて合わせると
それは始まりの時を告げるかのようにキィンと透き通った音を響かせた。。



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